大判例

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名古屋高等裁判所 昭和57年(行コ)7号 判決 1984年6月18日

控訴人

豊田市長

西山孝

右訴訟代理人

鶴見恒夫

樋口明

被控訴人

豊田浄化槽センター株式会社

右代表者

山田正巳

右訴訟代理人

甲村和博

原山剛三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

つぎのとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する(但し、原判決三枚目表六行目に「法九条二項」とあるのを「法九条二項一号」と、六枚目表六行目に「一貫」とあるのを「一環」と改める。)。

(控訴人の主張)

1  し尿浄化槽清掃業はその業務内容の主たる部分がし尿浄化槽内に生じた汚でいの抜き取りであり、この汚でいが「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「法」という。)にいう一般廃棄物であることはいうまでもない。また、し尿浄化槽の普及が豊田市においても全世帯のほぼ五〇パーセントに達している現在、その清掃やそれから生ずる汚でいの処理が市町村における「清掃」・「環境の整備保全」「保健衛生」(これらに関する事項の処理は地方自治法二条三項七号により市町村の事務である。)上不可欠であることは生し尿の場合と異ならない。実際し尿浄化槽清掃の結果抜き取られた汚でいは法的には業者自身が処分することが可能だとしても大部分は市町村の設置している処理場に運搬され処分されているのであり、自然、し尿浄化槽の清掃も市町村の一般廃棄物処理行政全般のなかに組みこまれざるを得ないのである。

このような浄化槽清掃と一般廃棄物処理の密接不可分な関係からも、し尿浄化槽清掃にかかる事務は地方自治法別表第二の二(二)所定の「一般廃棄物の収集」事務(市町村の固有事務)と区別さるべきではない。また法九条の許可と法七条の許可とは両者が一体的に運用されることによつてはじめて法の目的が効果的に達成されるのであり、この点からも後者は自由裁量により、前者は覇束裁量によるというような区別があるべきでなく、共に市町村長の自由裁量にかからしめられているものと解すべきである。一般廃棄物の収集・運搬・処分(法七条の許可)とし尿浄化槽清掃(法九条の許可)のかかる密接不可分な関係は、とくに昭和五一年法律六八号による法の改正及びその後の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則」(以下「規則」という。)の昭和五二年厚生省令七号及び昭和五三年同省令一号による改正により法制度上もいちだんと明瞭なものとなつている。法九条の許可が覇束裁量処分であるとの見解は改正前の法九条が「技術上の基準に適合する施設及び能力」というような一見裁量の余地の少ない許可基準を掲げていたのに眩惑されて生じたもので誤つており、当然是正されなくてはならない。

2  本件不許可処分の理由としては、被控訴人が抜き取り汚でいを「貨物自動車及びバキューム車により運搬を行う」ことを予定しながら運搬等に必要な法七条の許可を持つておらず、同条の許可を受けている業者との業務提携の可能性もないことも考慮されている。すなわち、被控訴人は汚でい運搬につき何ら対策がなく、これを不法投棄し又は放置するおそれがあり、この点から控訴人は被控訴人が法九条二項二号、七条二項四号ハにいう「業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当すると判断したものである。したがつて仮りに法九条の許可が被控訴人主張のような裁量の余地の狭いものであるとしても、本件不許可処分は適法である。

(右控訴人の主張に対する被控訴人の反論)

1 一般廃棄物の処理事務と浄化槽清掃事業の許可事務とは地方自治法別表第二の二(二)においても明瞭に区別されているし、法も一般廃棄物の収集・運搬・処理業と浄化槽清掃業を明確に区別している。右は両者の間に質的な違いがあるためであり、このことは控訴人主張の法改正の前後においてなんら変りがない。法九条の許可は法七条の許可とは区別して扱われるべきである。

2 本件不許可処分の理由は既存業者以外の新規業者に許可を与えると業者間に無用の混乱を生ずるおそれがあるということのみであり、かつそれに尽きる。したがつて控訴人が本件申請につき法九条二項二号の基準に照してこれを審査し、被控訴人がその不許可事由に該当したとの控訴人の主張事実は否認する。またそもそも控訴人主張のようなことは不許可の理由たり得ないものである。

第三 証拠<省略>

理由

一当裁判所も原審と同じく被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと考える。その理由は左に補足するほか原判決理由説示と同一である(但し、原判決八枚目表九行目および九枚目表三行目に「別表第二(二)」とあるをいずれも「別表第二の二(二)」と、九枚目表四行目の「汚物をそれ自身で」から同五行目「維持・管理にあり、清掃の」までを「管理者の義務とされる浄化槽の維持・管理(八条四項)の一環としての清掃にあり、その」と各訂正する。)から、これを引用する。

1  当審における控訴人の主張1について

確かに、し尿浄化槽清掃業者の抜き取つた汚でいは一般廃棄物であり、通常、市町村の終末処理場まで運搬されてそこで処分されるから、市町村が法六条一項に基づく一般廃棄物処理の計画を定めるについてもこれを考慮外におくことはできないし、し尿浄化槽の維持管理もそれが適正を欠くときはたちどころに公衆衛生や生活環境の保全に影響を及ぼすことから、法九条、規則四条の二、六条、七条、同条の二等この面の法的規制が改正の度毎に強化されてきたこと控訴人主張のとおりである。しかし、これによつて浄化槽清掃の業務が一般廃棄物収集の業務に含まれることになつたわけでもなければ、法九条の許可の法的性質や裁量の範囲に関する前記の結論(原判決引用)に消長を来たすものでもない。およそ、し尿浄化槽清掃業者は、一般廃棄物処理業者が本来市町村に課せられた一般廃棄物の処理義務を代行するのと異なつて、浄化槽管理者からその義務に属する浄化槽の維持管理の一環たる清掃を請負い、これを処理するにすぎないものである。そうして、この作業は従前から市町村によつて定常的に行なうことの困難な業務として旧清掃法時代には汚物取扱業者のうち専門的知識、技能等を有する者がこれを行なつていたが、その専門知識、技能の深化向上の必要性の増大にかんがみ、法はこの業務を一般廃棄物処理業から分離し独立した業務の対象としたのである。その結果、し尿浄化槽清掃業と一般廃棄物処理業とはこれに要する許可についても法律上の取扱いを異にするにいたつたもので、このことは法九条二項の基準のなかに法七条二項一号二号に相当する規定のないことからもこれを窺うことができる。よつて、法九条の許可がいわゆる自由裁量処分であるとする控訴人の主張は採用することができない。

2  当審における控訴人の主張2について

控訴人は法九条の許可が右のごとく裁量の余地の狭いものであるとしても被控訴人には同条二項二号の引く同法七条四号ハに該当する不許可事由があつた旨主張する。しかしながら、この点につき控訴人が何らかの調査をなしたかのごとく述べる当審証人太田正己の証言は、原審証人永田猛之の証言に対比しにわかに措信できない。かえつて、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、当審にいたり被控訴人がたまたま法七条の許可を受けておらず、本件申請に併せてその出願もしていない点をとらえて、直ちに被控訴人が「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある」と主張するにいたつたものであることが明らかである。確かに、昭和五三年厚生省令五一号により規則二条に改正が加えられ、従前の二号が削除されたため、し尿浄化槽清掃業者が浄化槽から抜き取つた汚でいを収集、運搬、処分するには別途法七条の許可を必要とすることになつたのであるが、それだからといつて、法九条の許可はあるが法七条の許可のない業者が必ず右抜き取り汚でいを放置したり、不法投棄したりするものとは断定できないこというまでもない。事実調査をなさずして被控訴人が不正又は不誠実な行為をするおそれがあるということはできないのである。いずれにしても法がし尿浄化槽の清掃業の許可を一般廃棄物の処理業のそれとは別個のものとしている以上、法七条の許可と併願しなければ法九条の許可申請が認容されないことに帰着するごとき解釈がとうていとりえないものであることはいうまでもない。

要するに、控訴人は本件不許可処分をなすにつき被控訴人が法九条二項二号に該当しているか否か実質的な調査を遂げなかつたものであり、右に該当する旨の控訴人の主張は採用することができない。

二以上のとおりであるから、本件不許可処分を取消した原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(宮本聖司 海老澤美廣 笹本淳子)

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